認知症症状や認知機能の理解からみる適切な認知症ケアのポイント
認知症についての一般的な理解
認知症は特定の病名ではなく、生理的な老化とは異なる病的な記憶力低下や、思考力低下などの症状全般を表す言葉です。厚労省などによると、認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が、慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」とされています。
・神経変性疾患 ・・・アルツハイマー病、びまん性レビー小体病、ピック病など
・脳血管障害・・・脳梗塞、脳出血など

このような病気以外にも、頭部の外傷、薬物やアルコール等の中毒、脳腫瘍等も認知症の原因になることがあります。
認知症の種類は、この原因疾患別に分類するのが一般的です。
患者数が多いタイプから、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症を「3大認知症」という場合があります(ピック病による前頭側頭型認知症を加えて4大認知症という人もいます)。
また、アルツハイマー型認知症は、英名のalzheimer’s diseaseから「AD」、レビー小体型認知症は同じくdementia of Lewy bodiesから「DLB」、前頭側頭型認知症はfrontotemporal Lobar Degenerationから「FTLD」と略されることがあります。
認知症の症状は中核症状とBPSD
認知症はその名前が示すように、周囲の状況を正しく認知する機能が低下したり損なわれたりします。もともと加齢によって感覚機能は低下するので、高齢者は認知機能が低下するのが普通ですが、認知症になると、その傾向がさらに加速することがあります。
認知症の症状を分類すると、 「中核症状」 と 「BPSD」 の2種類があります。
・中核症状とは・・・多くの認知症の人に継続的に共通して現れる症状
・BPSDとは・・・ Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、 さまざまな要因によって現れたり、改善したりする認知症の行動・心理状態と訳されます。「周辺症状」ということもあります。
記憶障害(物忘れ)と見当識の障害、判断力の低下です。
見当識の障害というのは、自分が置かれている状況がわからなくなることで、季節や日付、時間などがわからなくなったり、今いる場所がわからず道に迷ったり、周囲の人との関係がわからず子供と孫を間違えるといったような症状です。
BPSDの種類は多く、列挙すると粗暴行為、介護拒否、物盗られ妄想などの被害妄想、昼夜逆転や夜間せん妄、徘徊や帰宅願望、不潔行為、異食、収集癖、性的な言動、抑うつ状態などが挙げられます。
それぞれの症状については別に解説しますが、BPSDは認知症の人に共通して現れるものではなく、原因疾患の病状との関係もわかっていませんが、おそらく病気以外のさまざまな要因が影響していると考えられています。

また、レビー小体型認知症と前頭側頭型認知症の場合は、特異的な症状(そのタイプの認知症だけに現れる症状)があるといわれています。
認知症の症状に影響する要因
一般的に原因疾患別に分類される認知症ですが、原因疾患と症状との関係についてはわかっていないことが多く、原因疾患が進行するにつれて認知症の症状も悪化するとは限りません。
例えば、脳梗塞になった人でも認知症にならない人がいますし、アルツハイマー病でも認知症の症状がない人がいます。原因疾患の多くは進行性の病気ですが、原因疾患の病状が進むと認知症の症状が悪化するという訳でもありません。
これは、認知症の症状には、原因疾患そのものよりも、それ以外の要因が大きく影響するからです。
その時々の本人の体調、環境や人間関係、日常生活における活動性、周囲の人とのかかわり方、本人の元々の性格など、さまざまな要因が認知症の症状に影響を与えることがわかっています。
また、薬を服用している人であれば、その副作用で認知症の症状が悪化することがあります。
よく認知症は脳の病気だといわれますが、実は脳の病気以外の要因が認知症の症状に大きな影響を与えることを知っておく必要があります。
認知症の介護では、中核症状だけであれば、介護者など周囲の人が気をつけていれば日常生活を送る上で大きな支障がないことが多いのですが、BPSDが現れると介護の苦労は増大し、日常生活でも支障が大きくなります。

そのため、認知症の介護ではBPSDの原因を探り、できるだけBPSDが現れないよう、現れた場合でもできるだけ早く解消するよう介護をおこなうことが重要になります。
認知症の症状にかかわる認知機能とは
認知症になると認知機能が低下するため、現実の状況を正しく理解し判断することが困難になります。この認知の誤りが現実とかみ合わないチグハグな言動につながります。
このように周囲の状況を認知するプロセスを認知機能といいますが、高齢者に限らず、人は常にさまざまな状況(周囲の人や環境、場所や物、時間など)の中に置かれています。
そして、これらの状況を「知覚」した上で「理解」し、それまでの経験や知識、記憶などに基づいて「判断」をした上で、何らかの言動につなげています。実際にはこれらは一瞬でおこなわれています。

ここで大切なことは、この認知のプロセスは認知症の原因疾患の進行状況だけではなく、それ以外のさまざまな要因に影響を受けるということです。
例えば、「知覚」は視覚や聴覚、味覚などの五感によっておこなわれています。「理解」と「判断」は、記憶や意識レベル、集中力や注意力などが影響します。
ここで、介護施設に入居をしている高齢者を例に考えてみましょう。
朝起きた時に「自分がいる場所は介護施設だ」ということを目で知覚し理解します。介護職員が入ってきて挨拶したら、「この人は介護職員だ」と同じく理解するでしょう。
そして介護を受ける時にも、これらのことを理解していれば、拒否することなく介護を受け入れるでしょう(判断と行動)。
例えば、寝ぼけていて意識レベルが低く介護施設だと理解できなかったり、介護職員だと判断できなかったり、あるいは介護施設に入居していることを忘れていたりというように、自分が置かれている状況を正しく理解できないとすると、介護を拒否するような言動を起こすかもしれません。

これは認知症のBPSDの典型的な症状ですが、この例のように認知症の原因疾患が進行したわけではなく、寝ぼけて意識水準が低いということが原因で、このような症状が現れる場合もあります。
認知症ケアは正しく認知できる支援と正しく認知できなくても適切な対応をすることが大切
認知症の症状とかかわりが深い認知機能は、感覚機能や記憶や意識レベル、集中力や注意力などに影響を受けます。年をとると老化により感覚機能は低下します。
また、体調が悪い時には集中力や注意力がなくなることもあります。同じく睡眠中や寝ぼけているような意識レベルが低い状態では周囲の状況を正しく認知・間違って認知することは困難でしょう。
認知機能は認知症という病気そのもの以外の要因に影響を受けることから、認知機能を低下させるような要因のうち、病気以外の要因を改善することで、正しく認知できることを支援することです。

正しく認知することが現実に合った言動につながります。反対に、現実を正しく認知できないと、現実と合わないチグハグな言動が現れる場合もあるでしょう。
正しく認知できるための支援とは、具体的には認知機能が低下しないように、体調を整え、活動性を高めることで、これは認知症ケアだけではなく、高齢者介護の基本であり、基本ケアと呼びます。これ以外に、「わかりやすい環境整備」も含まれるでしょう。
但し、介護者が基本ケアを中心に正しく認知できる支援をしても、何らかの要因で正しく認知できない場合もでてきます。そのような場合でも、適切なコミュニケーション、適切な対応をおこなうことで、それ以上症状が悪化することを防ぐことが必要になります。