介護技術は自立支援と主体性―人の自然な動きに着目した介護の基本姿勢―

自立性・個別性・主体性を意識する

 介護における最優先目標は、可能な限り介護が必要な人(以下要介護者)の「自立を支援する」ことです。そのため、介護技術の全般にわたり、要介護者本人が主体性を維持できるよう関わる(介護する)という姿勢が必要です。

 どんなに介護経験が長く、手際良く介護ができる技術があっても、要介護者の意思や主体性を無視した介護をおこなうのであれば、要介護者の自立性を阻害することになり、質の高い介護とはいえません。
 そのために、次の三つのポイントを意識して介護しましょう。

一つ目は、ADLの自立性向上をめざすことです。

 介護の役割は、従来一般的だった「できないことを補う介護=補完的介護」にとどまらず、できることを維持し、広げていくことが重要す。自立を支援するという介護の本質は、要介護者のADLの自立性向上であり、常にこれを意識して介護をおこなう必要があります。

二つ目は、個別性の尊重です。

 要介護者の状態(マヒや拘縮などの有無、ADL各行為ごとのの自立性など)や生活習慣は1人ひとり異なっていて個別的です。そのため、介護は個々の要介護者の個別性に合わせる必要があります

三つめは、自己決定の尊重です。

 要介護者のQOLに大きく影響する事柄に、自己決定があります。障害があったり、ADLの自立性が損なわれていたり、場合によっては寝たきりになっても、自己決定できるか否かによってQOLは大きく異なるといわれています。

そのため、要介護者の自己決定を尊重し、適切な自己決定ができるよう支援することも介護の大きな役割の一つであるといえます。

身体介護の基本は安全性・快適性・声かけ、続いて効率性・ボディメカニクス

 身体介護には様々な介助の種類がありますが、全ての身体介護に共通する重要なポイントがあります。

第一優先は、安全性です。

 身体介護のすべてで安全性の徹底は最優先事項です。介護をおこなうことに伴う危険、あるいは日常生活における危険性を事前に予測し防止する必要があります。特に、さまざまな場面における転倒や転落による事故には最大限の注意を要します

次は、快適性です。

 ある程度安全性が担保された状況の中で、精神的にも身体的にも快適に過ごせることを考慮して介護することも重要な要素です。

そして、声かけと誘導も介護では必須の要素です。

 身体介護の多くは、全て介護者がおこなうというわけではありません。特に要介護者の自立を促す介護では、その傾向は強くなります。 そのため、できるだけ、自分できることをするように声をかけたり、誘導したりすることも大切です。

 但し、無理強いするのではなく、自分でできたら誉める、感謝する等、利用者自身が「自分でやってみよう」という気持ちになるような声かけを工夫しましょう

さらに、 安全性と快適性を損なわない範囲であれば、効率性も大切です。

 必要以上に時間や物品を使う、利用者に様々な負担(経済的・精神的等)をかける等は、安全で快適な介護であっても、要介護者の満足感の低下を招くだけでなく、介護する側の負担増にもつながります。

 ボディメカニクスは、介護者の身体的な負担軽減に効果的です。
 利用者の自立性を阻害しない範囲であれば、無理な体勢で介護をおこなうより、ボディメカニクスを取り入れて身体負担を軽減することは合理的な方法だといえます。

移動介助は人間の自然な動きの理解が必須

 移動は、人が生活する上での基本的な動作であり、食事・排泄・衣類の着脱など、あらゆる日常行為には移動が伴います。
 そのため、生活の基本である移動動作を介護することを「移動介助」といい、これが身体介護全ての基本であるということができます。

移動動作の種類は5種類あるといわれています!

「 寝返る・起き上がる・立ちあがる・座る・歩く」の5種類です。
複雑に見える移動動作も、この5種類の組み合わせで構成されています。

 介護者は、移動動作ごとの動きを理解し、それに合わせて介護するのが基本です。移動介助の方法を考えるにあたっては、次のようなプロセスで理解する必要があります。

移動介助の方法を考える<1>

 まずは、人間の自然な動きを理解することです。
 「人間の自然な動き」とは、人間が成長する過程で培った合理的な動きであり、苦痛の少ない動き方のことです。

 一例を挙げると、イスから立ち上がる時、人は直線的に上に向かって立ち上がるのではなく、一旦前かがみの姿勢から、上体が円を描くように立ち上がります。
 
 これが自然な動きであり、介護をする時もこの動きに合わせて介助する必要があります。また、障害によって拘縮や麻痺などがある場合は、そのことを含めた動きがその人の「自然な動き」になります。

移動介助の方法を考える<2>

 続いて、重心の移動を考え危険を予測することです。
 まっすぐ立っている時、重心は臍(へそ)の下にありますが、両足が床に接地している部分をつなげた面(支持基底面)がこの重心を支えています。

 移動する際にはこの支持基底面から重心が外れることがあり、転倒する危険性が高くなります。そのため、移動介助の際は、移動に伴って重心がどのように移動しているかを考え、転倒の危険性を予防する必要があります。

以上のように、人間の自然な動きと個別の動き、重心の移動による危険性予測を考慮して、適切な介護方法や関わり方を理解して介護するのが、移動介助の基本です。

ボディメカニクスは負担軽減につながるが、使う際は注意が必要

 ボディメカニクスは、人間の運動機能である骨や関節、筋肉等の相互関係の総称ですが、介護にボディメカニクスを活用することで、介護者の身体的負担を軽減できるという考え方があります。

 但し、ボディメカニクスは、物を持ったり移送したりする際の身体的負担を軽減するための考え方なので、要介護者が全介助であることを前提としています。
 そのため、ボディメカニクスを活用する際は、要介護者の自然な動きや自立性を阻害しない範囲でおこなわれるべきです。

ボディメカニクスのポイント<1>

 ボディメカニクスのポイント一つ目は、支持基底面を広くとることです。
 
 支持基底面とは床に着いた(体を支えている)部分を結んだ範囲(面)のことです。
 両足をぴったりつけている状態より、足を広げた状態の方が支持基底面は広がり、転倒しにくくなります。支持基底面を広くすることは、介護者の安定性だけでなく要介護者の安定性にもつながります。

ボディメカニクスのポイント<2>

ボディメカニクスのポイント二つ目は、重心を低くすることです。

 重心が低いほど安定性は増します。まっすぐ立ったまま介護するより膝を曲げて腰を落とした方が重心の位置が下がり安定します。

ボディメカニクスのポイント<3>

ボディメカニクスのポイント三つ目は、できだけ相手に近づくことです。

 介護する際できるだけ相手に近づいた方が介護しやすくなります。離れているより力を使わないで介護できるからですが、近づき過ぎて双方の動きを妨げることもあるので注意が必要です。

ボディメカニクスのポイント<4>

ボディメカニクスのポイント四つ目は、介護の途中で体を捻じらないことです。

 体を捻じると不安定になって危険なだけでなく腰痛の原因になります。もし介護動作の途中で体の向きを変える必要がある場合は、体を捻じるのではなく、足の位置を変え体全体の方向を変えるようにします。

ボディメカニクスのポイント<5>

ボディメカニクスのポイント五つ目は、水平移動を優先することです。

 持ち上げてから移動するより、床に置いたままずらす方が簡単ということです(水平移動)。
 全介助かそれに近い場合、ベッド上で体を移動する等の際、身体を持ち上げずにずらす方が容易に介護できます。この他にも「膝の屈伸を活用する」ことや、腕を組んでもらう等で「対象を小さくまとめる」ことなどがあります。

 以上のようなボディメカニクスのポイントを介護に活用するのは、負担軽減や安全性に効果がありますが、あくまで要介護者の自然な動きを阻害したり、主体性を無視したりすることがないよう注意する必要があります。