廃用症候群の克服は介護に不可欠

廃用症候群は、動かないことの悪循環

 過度に安静にすることや、活動性が低下したことが原因で、さまざまな心神機能が低下することを「廃用症候群」といいます。

廃用症候群とは・・・ 英語名は「disuse syndrome」なので、直訳すると「不使用症候群」が近いかもしれませんが、和訳されて廃用症候群と呼ばれてきました。
 近年になって“廃”という字のイメージが良くないことから、「生活不活発病」と呼ぶ場合もあります。

 廃用症候群は病気等で、長期間安静状態を続ければ若い人にも現れますが、活動性を取り戻すことで容易に回復します。ところが、高齢者の場合には深刻なダメージになることが多いのです。

 高齢者は病気やケガで入院して安静状態が長くなったり、機能低下や意欲の喪失等で閉じこもりがちの生活を続けたりすることで廃用症候群に陥ります。

 例えば、脳卒中の発作で入院し、マヒ等の後遺症が残ったまま退院して、施設や自宅で寝たきりの生活を送っている高齢者は多いのですが、このような状態は、脳卒中やその後遺症が原因で寝たきりなのではなく、廃用症候群による機能低下が真の原因であることが多いのです。

 廃用症候群は、本人の自覚が無いまま進行し、いつの間にか起きられない、歩くことができないといった状態になることもあります。

 一旦、廃用症候群に陥ると、機能低下によってさらに活動性を上げることが困難になってしまい、より一層機能低下が進むという悪循環に陥りやすいです。
 高齢者介護においては、廃用症候群を予防すること、一旦寝たきり等になってしまった場合には、廃用症候群を改善することをめざして介護することが極めて重要なのです。

さまざまな弊害が現れる廃用症候群

 廃用症候群になるとさまざまな弊害が起こります。

 例えば、高齢者が絶対安静の状態で筋収縮がおこなわれない状態が1週間続くと、10%から15%の筋力低下が起こるといわれています。また、2週間程度の安静で下肢の筋肉が2割も萎縮するという研究者もいます。

 廃用症候群の主な弊害には、以下のようなものが挙げられます。 

・筋力が低下し、関節が固まる、また骨が弱くなり、骨折しやすくなる
・バランス能力が低下し、歩行困難や転倒のリスクが高まる
・心肺機能(心臓や肺の機能)が低下する
・慢性的な便秘になる、便意や尿意が消失する
・精神機能が低下し、表情が乏しくなる、認知症のような症状が現れる(廃用性認知症)
・褥そうができる危険性が高まる
・(口から食べない場合には)口腔機能全般が低下して誤嚥の危険性が高まる、コミュニケーションが難しくなる
・起立性低血圧、血栓栓塞現象、せん妄、圧迫性抹消神経障がい、尿路結石や尿路感染症などにつながるという指摘もある
・ 体を動かすことが少ないと食欲の低下にもつながりやすいため、低栄養から体力や免疫力の低下を招いてしまうこともある

 もともと老化によってさまざまな機能が低下している高齢者にとって、このような症状が現れる廃用症候群は天敵ともいえるものだといえます。

高齢者のQOLの維持し、明るく健康的な生活を送ってもらうことを意識するのであれば、廃用症候群と向き合い克服することこそが、高齢者介護の最優先課題といえるでしょう。

廃用症候群の予防は、できるだけ動くこと

 廃用症候群を予防するためには、できるだけ活動性を低下させないように生活することが必要です。ADLが自立かほぼ自立という高齢者であれば、活動性を低下させないよう促しましょう。

 その際は、まず廃用症候群に関する説明をおこない、活動性を維持することの重要性を伝えます。
 老化による機能低下があると、動くことがおっくうであったり、辛かったりするような場合ことがあるでしょう。
 そのような場合でも、できるだけ体を動かす、屋内だけで生活するのではなく、週に数回は外出し、買い物をしたり、趣味活動をおこなったりすることを勧めます。

 また、できるだけ家族やヘルパー等身近な人以外とも会話をする等、コミュニケーション上の刺激も大切です。施設やデイサービス等であれば、屋内でのレクリエーションだけでなく、屋外に散歩に行く、買い物をする等の活動を取り入れることが効果的なので、担当ケアマネジャー等にそのような要望を伝えることも必要です。

廃用症候群を改善するには、体調を整えて活動性を向上する

 現時点で既に廃用症候群になっている、例えば寝たきりの生活を送っているというような場合、今日からいきなり活動性を高めるために外出する等ということは難しいでしょう。

 特に数ヶ月以上にわたって長期間安静状態が続いている場合には、さまざまな機能低下が進行していて、本人の意欲だけで活動性を上げるのは不可能だと思われます。

このような場合には、体調を整えることから始め、徐々に活動性の向上をはかることが重要です。

 そのためには、脱水と低栄養、便秘を改善するための「基本ケア」を確実に実施し、その上で、寝たきり等活動性が低い状態からできるだけ活動性を向上するための支援をおこなうことが必要です。

 廃用症候群が体調不調を招いている場合が多いので、体調の改善をはかります。特に水分摂取量を適正にするために、疾病による水分制限がない場合は最低1日1,500ml程度を目安に水分を摂るようにします。

 また、栄養が不足すると体力低下を招くので、栄養摂取量を適正にします。そのため、1日3回の食事はできればお粥ではなく常食にし、できるだけ介助しないで自分で摂るよう促します。やむを得ず食事介助する場合でもベッド上ではなく、イスに座ってテーブルで摂るようにしましょう。
(※自分で食べることと、正しいしい姿勢で食べることは誤嚥防止にもつながります)

 また、排泄のうち排便だけは、全介助であってもトイレ(必要ならポータブルトイレ)で座ってするようにします。本人が便意を感じない場合は朝食後、毎日必ず座って排便を促すことを継続しましょう。排便を促すタイミングは、過去の本人の習慣に合わせても良いでしょう。

体調を整える支援のまとめ

【水分】 最低1日1,500ml程度 (水分制限がない場合)
【食事】 1日3食、できるだけ座って正しい姿勢で食べる
【排泄(排便)】トイレ(必要ならポータブルトイレ)で座ってする

 

 体調を整える支援をおこないつつ、体調や意識を観察して、少しでも動くことができるようなれば、歩行器等を使って歩く練習をしたり、車いすを使っても良いので外出したりというように、徐々に活動性を高め、活動範囲を広げていくことで廃用症候群を改善するきっかけになるはずです。
 これらが家族だけで難しい場合は、訪問介護や通所介護を活用しましょう。