自立支援介護による成果【事例あり】

人によって自立支援の解釈が違う

 以前から介護の世界では「自立支援」という言葉がよく使われていましたし、介護保険法の目的の一つが自立支援であると規定されています。
 介護保険法の第1条には、法律の目的が書かれていますが、その中に(要介護高齢者が)「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、…」という文章があります。
 これらのことから自立支援は介護の基本であるといえるでしょう。

 ところが、この「自立」と「自立支援」という言葉の解釈については、介護関係者の間でも考え方が違います。いろいろな資料等を調べてみると、所属する団体の立場や各人の考え方等によって、解釈が異なっていて、その違いは介護の目的や方法にまで影響を与えています。
 自立や自立支援についての解釈は大きく分けると三種類に分けることができそうです。

要介護度を指標にすべきという考え

 一つ目の考え方は、「要介護度の維持や改善こそが介護における自立支援である」というもので、これは政府や自治体、保険者といった介護保険制度を運用していく立場における認識のようです。

 介護保険制度を、適正に継続して運用していく立場からすると、介護保険の財政を適正にしておく必要があります。
 介護保険制度における給付の仕組みは、要介護度が重くなるほど給付限度額が増えることになっているので、介護給付費(支出)をできるだけ抑えるために、要介護度が重い人をできるだけ減らしたいと考えるのは自然なことでしょう。

 そのため、自立支援という場合、要介護度の維持、できれば改善することが最優先であるという考え方になるのでしょう。

制度を改定する度に、「介護予防」とか「自立支援型ケアマネジメント」等が強調され、制度化されるというのは、このような考え方の現れであるといえるでしょう。

ADLの自立性向上を優先する

 二つ目は、「介護における自立支援では、ADLの自立こそが重要である」という考え方です。
 ADLの自立性が高くなると、自然に要介護度も改善しそうなものですが、要介護度を決める指標は必ずしもADLの自立性とは直接つながっているわけではありません。
 そのため、ある程度正の相関関係はあるものの、ADLの自立性が高まっても要介護度は変わらないということは起こります。

 ADLの自立性を最優先する考え方の代表格は「日本自立支援介護・パワーリハ学会」でしょう。同学会の会長は国際医療福祉大学大学院教授の竹内孝仁氏であり、長年にわたり特養等で「おむつ外し」等、ADLの自立性を向上させるための介護を実践してきました。

竹内理論・ あるいは自立支援介護理論と呼ばれる理論

水分、食事、栄養、排泄という基本ケアを徹底することで、体調を整え活動性を向上させることによって、ADLの自立を目指すというケア理論

 ADLよりもQOLの方が重要であり重視すべきだと反論する人もいるようですが、この考え方はQOLを軽視しているのではなく、ADLの自立性が向上することによってQOLの向上につながるという考え方です。

「本人の選択権を担保する」ことが大事という考え

 三つめの考え方は、介護分野では最もポピュラーな認識かもしれません。

 要介護状態、すなわちADLの自立性が損なわれても、その部分はヘルパー等による介護を受けることで補完する、その際援助者が利用者の選択権を尊重することによって、自分の思い通りの生活を送れるようにすることが介護における自立支援であるという考え方です。
 言い方を変えると、「介護における自立支援とは、利用者の選択権を尊重することである」ということになるかもしれません。

自立と自律は違うのか

 以上、三種類の考え方は必ずしも対立するとは限りませんが、自立支援をどう捉えるかということは、介護の目的や方法論の違いにつながったり、介護における優先順位や重視することが異なったりすることにつながってきます。

 ところで、自立と似ている言葉に自律があります。自立と自律、読みはどちらも「じりつ」ですが、意味合いが若干異なります。

自立とは・・・「他に従属せず、他からの支配や助力を受けずに存在する」という意味
自律とは・・・「自分自身の規範に従って生活する」 という意味が加わる

介護分野では、自立は「身体機能やADLが自立していること」であり、自律は「身体機能やADLは自立していなくても、選択権が尊重され、自分の意思で行動や生活ができること」というように解釈されることが多いようです。

 例えば、介護を必要としている人の場合、介護なしで生活する(自立する)ことはできなくても、自分の意思でさまざまな選択をしながら生活することができれば、自律的な生活であると考えるというような考え方です。

このような考え方は決して間違いではありませんが、さまざまな機能やADLの自立性を回復する可能性が残されているのであれば、まずはその可能性にチャレンジするべきではないでしょうか。

利用者の状態によって自立支援を考える

 もちろん、機能やADLを回復するためには非常な困難や苦痛が伴うというような場合は、それらとのバランスを考慮する必要があります。また、機能やADLを回復する可能性が無いか、極めて可能性が低い場合には、自律すなわち介護等の支援を受けながら生活する中で、選択権の尊重を重視するという考え方が優先されるべきでしょう。

 例えば、進行性の病にかかった人の場合、病状や身体の状態にもよりますが、自立性回復を試みることには大きな苦痛が伴い、しかも回復すること自体がとても難しい、ということはあるでしょう。さらには、終末期ケア(ターミナルケア)では、機能やADLを回復することにはあまり意味がないといえるでしょう。

 本来、介護の目標は人によって異なります。介護目標も個別に細かく設定されます。そのため、ADLの自立を目標とすべきか否かといった大雑把な議論は、本来あまり意味がないのですが、目標を考える際の根本的なポリシー(方針)としては、考慮する必要があるといえます。

これらを前提とすれば、介護における自立支援とは、次のような考え方が最も妥当なものだと考えます。

 身体機能の改善やADLの自立性を回復する可能性があればそれを目し、これらが改善していれば、次回の要介護認定の更新では結果的に要介護度も改善されるでしょう。

 病状や障害の内容などによってはADLの自立性向上が不可能、あるいは意味が少ない場合は、自律的な生活を支援することを目標とするという考え方。

自立支援介護による成果 【事例】

 自立支援介護を実践することでどのような成果が得られるのか。 私が以前働いていた介護会社での事例を紹介します。

 介護サービスを始めた時の状態は、次のとおりです。

自律介護支援による成果の事例

・10年前に脳梗塞を発症
・80歳の女性
・要介護5
・糖尿病や貧血、認知症などの病名あり


 1日中ベッドにいて、おむつをつけ、食事は家族が介助してベッドの上で寝たまま食べているという寝たきりの状態で、 意識ははっきりせず、ぼうっとしていて、大きな褥そう(床ずれ)がありました。 また、認知症の症状も妄想や介護拒否、暴言や暴力がありました。
 介護サービスは、訪問介護と訪問看護でおむつ交換等、週1回デイサービスを利用していました。

 この方に対して自立支援介護理論に基づいた介護を提供することを決めて実行しました。

具体的には、ヘルパーと家族が協力して次のような取り組みをしました。
・水分や食事の摂取量を増やす
・排便だけでも座ってしてもらうため、トイレでの排泄介助
・口腔ケアの実施
・さらにさまざまな症状に合わせてそれぞれ薬が処方されていたので、

 医師に相談して薬を最小限にしてもらう等

 このような介護を4ヶ月継続した結果、食事は自力で食べ、食事や水分も適切な量を摂れるようになりました。認知症の症状はほとんどなくなり、時々介護を拒む程度で、日中ぼうっとしていたのが、活気がでて普通に会話ができるようになりました。
 24時間ベッドの上で生活していた状態から食事や排泄時などを含め1日3時間程度は、ベッドから離れて生活するようになりました。褥そうは完全に消え完治しました。

 この事例では、要介護5で寝たきりというADLの自立性が完全に失われ、全てを介護に頼らなければならなくなったのは、10年間の寝たきり生活という活動性が極端に低い生活を続けたことが原因です。

 このような場合、水分や食事などで体調を整え、少しでも活動性を高めることでADLの自立性を回復することが可能になりました。サービス開始時と4ヶ月経過した状態を比較すれば、QOLの向上したことが想像できます。ADLの自立性向上の可能性を探ること、これは介護の基本中の基本だと考えます。