ADLの自立性向上とは

生活に直結するADL

 ADLが自立しているかどうかは、日常生活を送る上で介護される(人の手を借りる)必要があるかどうかということと等しいといえます。そのため、ADLが自立しているかどうかは、ご本人にとっては非常に重要な問題です。

 介護する側からすれば、利用者のADLの自立性が向上できる可能性があるのであれば、できる限りそのことを目指した介護サービスを提供する必要があるといえます。

 ADLの自立を考える際、リハビリテーション(以下、リハビリ)分野におけるADLについての認識が参考になります。リハビリ分野では、患者さんによっては、訓練の時や診察の時にはできていることでも、病棟や自宅で実際に生活している場面では、それをおこなっていないということがあり、そのことが問題視された時期がありました。

 つまり、たとえ能力的にはできる動作でも、実生活ではおこなわなければ役に立たないのではないか、という訳です。

 そこで、リハビリ分野では、「できるADL」と「しているADL」を分けて考えるようになりました。

「できる」にもかかわらず「していない」ADLがある原因は何かと考える

・訓練室と自宅では廊下の幅や段差の有無等環境が異なるという環境要因
・訓練時には頑張ってできても普段やるほどの体力がない
・訓練時ほど意欲がわかない
・自然にできるほど習慣化していない 
 等々の要因が考えられました。

 いずれにしても、このように「できるADL」と「しているADL」との間にギャップがあるのであれば、「できるADL」の自立性を高めるだけではダメで、日常生活で「しているADL」の自立性を向上させることを目標にすべきだと考えられるようになりました。

 このように、「できる」にもかかわらずしていないADLがある原因は何かと考えた時、 このことは、介護の世界でも同様です。一時的にできることだけで、「できる」と判断するのではなく、日常的に継続してできるかどうかが重要です。

 例えば、シルバーカーを押して買い物に行くことができるというケースでも、毎日行くことができる人と、頑張っても1週間に1回行くのが精一杯という人では、ADLの自立性の程度は異なると考えるべきでしょう。

一時的にできるADLだけを考えるのではなく、利用者の普段の生活におけるADLの自立性を向上させるためにはどうすべきかを考えることが必要だといえます。

ADLの自立性は回復できる

 介護分野における自立支援には、概ね3種類の考え方があります。

自立支援介護による成果【事例あり】 」に介護分野における自立支援の考え方3種類について書いています。今回は、ADLの自立性についてお話していきますね。

 「ADLの自立性を重視する考え方」の根底には、「高齢者の自立性は、一旦失われても回復できるケースが多い」という認識があります。

 例えば、脳卒中の後遺症で片マヒがあるという人の場合、リハビリをしてある程度回復したとしても、程度の差はあれマヒが残ることは多いでしょう。このような高齢者が退院すると、一日中寝たきりの生活を送るという場合があります。

 ここで知っておく必要があるのは、このような高齢者が寝たきりの生活を送っているのは、マヒが原因であると考えるのは間違いだという点です。 マヒは寝たきりの“きっかけ”にはなりますが、“原因”にはなりません。このことは、若い身体障害者のことを知っていれば、容易に理解することができます。

 仮に、脊椎損傷等の重い障害で下半身がマヒしていても、寝たきりの生活をしている障害者より、車いす等を活用して活動的な生活を送っている人の方が多いと思います。

 介護関係者であれば、そのような人と接した経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
 介護関係者でなくても、4年に1度のオリンピックと同時開催されるパラリンピック等で、障害を抱えた人が活躍している姿を見れば一目瞭然です。あるいは、周囲を見回してみると、障害があっても仕事や社会活動などで活躍している人がいるかもしれません。

それでは、先ほどの例に挙げたマヒがある高齢者は、なぜ寝たきりの生活を送っているのでしょうか。

大半の高齢者の寝たきりの原因は廃用症候群

 高齢者の寝たきりの多くは、マヒが原因ではなく、活動性が低い生活を続けることで、さまざまな機能が低下してしまう「廃用症候群」が原因であると考えられます。

 介護の力では、マヒを改善することは困難ですが、廃用症候群は活動的な生活を取り戻すことで改善が可能です。言い換えると、寝たきりというADLの自立性が極めて低い状態から、ADLの自立性を回復することが可能だということです。

 ADLとは人が産まれてから徐々に獲得していき、自立していくものです。障害がない成人であれば自立しているのが本来の姿です。

 そのため、何らかの原因で(例えばマヒがきっかけとなり、廃用症候群が原因で)、ADLの自立性が損なわれた場合、回復できる可能性があるのであれば、まずその回復をめざすことを目的とするのは当然だといえるでしょう。

自立支援介護理論は、このような考え方を基本にして、利用者のADLの自立性回復めざす介護の方法論であるといえます。